近代文芸と出版編集―挿絵と口絵の問題系を考える 出口智之・常木佳奈・中村健 (2019年7月13日開催)

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■ 日本出版学会 2019年度第2回(通算第107回)関西部会 開催要旨 (2019年7月13日開催)


近代文芸と出版編集――挿絵と口絵の問題系を考える


基調報告:出口智之 (東京大学)
報告者: 常木佳奈 (会員、立命館大学/日本学術振興会特別研究員〈DC〉)
      中村 健 (会員、大阪市立大学)


報告要旨

 文学作品の挿絵や口絵のイメージは、作者がどのように指示し挿絵画家が描いたのか?編集者がどのように関わったのか? 文学研究と出版史研究が交差するテーマを明治から昭和初期の事例をもとに3人の報告と議論が行われた。


基調報告:
出口智之 「絵画という戦略―明治作家と口絵・挿絵―」

 今回の基調報告は、出口のこれまでの研究内容を概観し、進行中の調査結果も盛込むことで、「画文学」という新しい概念の提示を試みた。作者が本文とともに挿絵の下絵も描き、それに従って絵師が描くという江戸時代の慣習は、実はかなり後年まで残っており、坪内逍遙・尾崎紅葉・幸田露伴・樋口一葉・泉鏡花・広津柳浪・島崎藤村・田山花袋・正宗白鳥・中里介山といった作家たちが、口絵・挿絵の下絵(出口は「指示画」と呼ぶ)を描いたり、または絵組と呼ばれる文章によって画工に指示していたことがわかっている。その中には、小説本文で記述しない過去の重要な出来事や物語の結末を口絵・挿絵で示したり、絵で示した虚偽の物語の謎解きを文章で行うなどの効果を挙げた例がある一方で、脱稿以前に描いた指示画と小説の内容とが齟齬し、原構想が口絵・挿絵に残った例も確認された。
 こうした問題に加え、特に新聞小説では、連日掲載される絵に変化をつけるため、小説の内容が規定されることもあった。絵画の挿入を拒絶した饗庭篁村、絵画の新しい活用法を模索した尾崎紅葉など、様々なスタンスを取る作者たちのなかで新聞小説の近代化は進行していった。だが、やがてそうした立場に飽き足らない画工が出現し、中里介山と石井鶴三が挿絵の著作権をめぐって争った昭和9年の「挿絵事件」にいたる。実質的な鶴三の勝利に終ったこの事件によって、挿絵画工の社会的地位は確立されたが、そこには知的財産権をめぐる法制史的問題も内在している。
 このように見てくると、文章と絵画の関係への着目は、文学や美術史研究だけでなく法制史・出版史・書誌学・印刷技術史・演劇史・広告史など、幅広い学問領域にわたる問題を提起する重要な視点であり、これらを視野に収めうる新しい学問として「画文学」を提唱したものである。
(文責:出口智之)


報告1:
常木佳奈 「文学作品と絵画:近代木版口絵の制作に携わった人びととその関係」

 明治期における木版口絵制作の様子を垣間見ることができる、画師・画家が色指定のために校合摺へ彩色を施した「さしあげ」や下絵などの一次資料を紹介し、小説作者と画師・画家、さらに木版職人らがどのような関係にあったか、考えられる可能性について報告した。また、同時代における出版社と木版職人らの仕事場の位置関係について、摺師・吉田市松を事例に、奥付から情報を採取し蓄積していくことで地理空間的な分析が必要なのではないかという指摘もなされた。
(文責:常木佳奈)


報告2:
中村 健 「新聞連載の挿絵の編集:下村悦夫『愛憎乱麻』」

 1928年に東西の朝日新聞で連載された「愛憎乱麻」は、大阪版は岩田専太郎、東京版は小田富彌が担当したが、“絵組み”で描かれた挿絵が多く、構図・人物の格好、動きまでそっくりなものが多くみられる。この事例から当時の新聞小説の編集体制や編集の意識を考察した。
(文責:中村健)


日 時: 2019年7月13日(土) 13時30分~16時20分
会 場: 大阪市立大学学術情報総合センターセミナールーム
参加者: 17名 (会員7名、非会員10名)