大阪屋号書店・再考 日比嘉高 (2014年2月15日)

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出版史研究部会 発表要旨(2014年2月15日)


大阪屋号書店・再考――外地/内地を結ぶ書物流通


日比嘉高 (名古屋大学大学院文学研究科准教授)


 1941年の日配成立以前において,外地向けの書籍取次として著名だったのは大阪屋号書店だった。たしかに満洲や朝鮮半島における存在感は大きかったようである。だが,外地と内地を結ぶ書物流通が,この大阪屋号書店にだけ代表させられてきた傾向はないだろうか。この報告では,同書店の再評価・再検討を行うと同時に,東京堂などの元取次,三省堂などの中規模取次,また関西・九州の地方取次などの活動を俯瞰し,日配以前の外地/内地を結ぶ書物流通の輻輳ぶりをあぶり出そうと試みた。具体的には,外地取次としての大阪屋号書店の活動のさまを明らかにすること,そして外地で活躍した他の取次・書店の活動を掘り起こし,大阪屋号書店の位置を評価し直すこと,の二つを報告の柱とした。
 まず大阪屋号書店の活動のようすを,できるだけ細かく追跡すべく年表形式で整理した。大阪屋号書店に関連する資料は多いとはいえず,すでに先行する優れた論考がその概略を明らかにしてきてもいる。今回は,出版業界関連誌の報道や回想や一般紙の報道などを手がかりに,支店の設置/廃止,連絡店の広がり,濱井松之助の長男のことなどについて,細かな点ではあるが,情報を加えたり,まとめたりした。また各支店の支店長などのプロフィールについて,判明する部分を整理した。さらには松之助の次男である弘(のちの二代目神田山陽)について,大阪屋号書店の商売に関する姿勢を再評価しようと試みた。
 報告の二点目の課題は,外地で営業した他の取次や,書店の活動について掘り起こすことであった。まずは既発表の拙稿(「書店資料から読む外地の読者――『全国書籍商総覧』(1935年)を用いて」『芸術受容者の研究――観者,聴衆,観客,読者の鑑賞行動』2011年3月,科研費報告書,課題番号20320028,研究代表者・五十殿利治)でも利用した『全国書籍商総覧』をもとに,内地外地を結ぶ大中小の取次網の輻輳ぶりを概観した。その後具体的に,元取次最大手である東京堂が外地においても大きな勢力をもっていたこと,三省堂や丸善がそれぞれの強みをもとに独自の支店網・取引網を広げていたこと,準大手の栗田書店も積極的に外地進出を狙っていたこと,柳原書店等の関西系や菊竹金文堂および大坪書店といった九州系の大書店兼取次業者も外地において大きな商売を行っていたことを確認した。外地向けの書物流通ということでは,大阪屋号書店だけが注目されるが,それでは不十分であることが明らかになったと考える。
 大阪屋号書店の登場から廃業への道筋は,帝国の書物取次網の歴史を考える格好の材料であり,今後,よりしっかりとした記述がなされねばならないだろう。一方,大阪屋号書店の歴史が,それ以外の業者との相対的な位置のなかにおいて考えられねばならないことも,強調せねばならない。
(文責:日比嘉高)