学術情報デジタル化の実際 島田貴史 (2012年12月6日)

Eメール 印刷 PDF

発表要旨(2012年12月6日)


学術情報デジタル化の実際
――北米学術情報流通の調査報告をふまえて


島田貴史
(慶應義塾大学メディアセンター本部)


 慶應義塾メディアセンターは日本の学術出版社数社と学術図書電子化共同実験に取り組んだ大学図書館である。この日は講師として実験の中心的メンバーでもある島田さんにお話を伺った。今回は電子化共同実験で得られた知見とともに,8月に訪れた北米OCLC(Online Computer Library Center, Inc.)の様子などもあわせて報告していただいた。OCLCはアメリカ合衆国のNGOで世界中の研究機関・図書館で構成された非営利のライブラリーサービス機関である。
 北米の図書館をとりまく状況を簡単に述べると,長引く経済不況と学術コミュニケーションのデジタル化を特徴として挙げることができる。前者は政府からの補助金カット,大学当局からのコストカットとなって現れ,また後者は研究者の非来館型利用の増加として現れた。また,これらが相まって非正規雇用ライブラリアンの増加などをもたらし,北米では大学図書館はその有り様をめぐって大きな曲がり門を迎えている。
 ユーザが資料にたどり着けるような工夫を凝らしたDiscovery Toolの採用,E-Scienceの台頭,そしてそれらの帰結である研究資料のデジタル化の促進は,競争資金獲得のための戦略ともいえる。すなわち,資金獲得をめぐって大学間での激しい競争に勝つためには,競争資金の投入先である電子的なリサーチデータの充実が不可欠なのである。
 日本の図書館においてもデジタル化の進展という意味では,北米に学ぶところは多い。慶應実験プロジェクトは学生に電子書籍デバイスを貸与し,デジタル化された学術図書数百点にアクセスできる環境を日本の学術出版社とともに作り上げた。モニターである学生のアンケートと聞き取り調査を行い,またアクセスログ解析などを行い,より使いやすいシステムを段階的に模索した。その結果,「電子書籍はWEBコンテンツの一種である」「1冊全部を読むときは印刷本のほうが適している」「最大の要望はコンテンツの量である」などという利用者の声を集めることができた。そして,図書館の電子書籍とともに,個人で購入したEbookの管理,授業ノート,授業のレジュメなど,学習に必要な情報を一元的に管理するプラットフォームが必要であるということが,この実験から得られた現段階での一つの結論であった。実験はこれから他大学の図書館に広め,次の段階には学術出版社と共同の「図書館向け電子書籍ビジネス」構築を目指す。
 島田さんの講演内容は以上の通り。出版社,印刷会社,図書館関係者などおよそ30名が参加した。
(文責:橋元博樹)