米国におけるeラーニング事情 植村八潮  (2002年7月16日)

■ 学術出版研究部会・デジタル出版部会 発表要旨 (2002年7月16日)

米国におけるeラーニング事情

植村八潮

日本出版学会(植田康夫会長)デジタル出版部会と学術出版研究部会は7月16日,東京・神田錦町の東京電機大学で合同部会を行った。「米国における電子テキストの動向と課題」をテーマに,東京電機大学出版局の植村八潮氏が,今年5月の米国視察の報告を織り交ぜながら米国のeラーニングの現状を解説した。以下にその概要を述べる。
現在,全米のほとんどの大学で,デジタルデータを用いたカスタムパブリッシングが行われている。カスタムパブリッシングとは,大学直営のブックストア事業の一つで,複数のデジタル化されたコンテンツから必要な部分だけを選び,すべてに対して著作権処理をした上で必要部数のみ印刷し販売するものである。もっとも利用率の高い南カリフォルニア大学では,教科書全体の27%をカスタムパブリッシングが占め,4億5000万円を売り上げている。また,米国では大学のブックストアーに新本とユーズドブック(古本)の教科書が区別なく並ぶため,出版社側はユーズドブック対策として内容の改訂を早めるだけではなく,改訂版の内容をデジタル化したCD-ROMや指導書などを紙の教科書と同封し,年度版として販売する方法などをとっている。日本でも研究留学の経験がある若手教員を中心に,カスタムパブリッシングによる教材の提供を希望する声が増えている。しかし,著作権処理・知的財産権の保護,デジタルデータの蓄積,教材製作のノウハウ・資金面など,日本の出版社がクリアーしなければならない課題は多い。
最後に行われた質疑応答では,米国と違い公的な助成があまり期待できない日本において,デジタル教材を製作する資金をどこが出資し,だれが作るのか,という質問があった。植村氏は,小規模の出版社が教科書を作っている日本においては,出版社だけではなく印刷会社の協力が不可欠だろうと語った。
(文責:植村八潮)